百日紅

 地元の駅を出て、私の家がある方とは反対側へ横断歩道を渡って、小さい道へ入って二度ほど角を曲がった所に、その“カフェ”はあった。
 お店の前には車二台分ぐらいのスペースがあって、そのスペースに四角いドーナツみたいに穴が開いた煉瓦が敷き詰められていた。そしてそのスペースのお店に近いはじの方へ、私の身長を二倍にした程度のさるすべりが植えてあった。ビニールみたいなものでできた、ひさしが張り出していて、さるすべりはそれを避けるように枝を伸ばしている。
 さて、そのひさしでできた影にスチール製のピカピカ光っているテーブルが置いてあった。その一つ、さるすべりに近い方のテーブルに25、6だろうか、男性が一人で座り、タバコをすっている。テーブルに乗って汗をかいている飲み物はアイスコーヒーだろうか。薄暗く見える店内よりも、風の通るその日陰はいかにも涼しげで魅力的だった。
「あ、外に座りたいな」
 私がリクエストすると、投網漁の彼よりも先に、テーブルに座っていた男性が反応した。
「いらっしゃいませ」
 青い長袖のTシャツでジーンズだったので、私はてっきりお客さんだと思っていたので、私は“あんた何?”って顔で見てしまったらしい。アイスコーヒー氏は少し驚いてから、口を開いた。
「こんななりでごめんなさい。一応、この店の者です」
 そういうと件の男性は立ち上がり、アイスコーヒーのグラスの口を持ち、ひょいと取り上げてから、タバコを灰皿で揉み消した。
「今メニュー持ってきますから、好きな席で少々お待ちください」
 そういって彼は薄暗い店内に消えていった。
「いや、それはないだろ……」
 投網漁はあんぐりと言った感じだった。私も驚きはした、驚きはしたが、理由が投網とは少し違っていた。
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