百日紅
さっきのアイスコーヒーの店員さんが、あまりにも私の好み過ぎた。マッチョでも、デブでも無いのにがたいが良くて骨張ってる感じとか、手が大きくて骨張ってる感じとか、特別な布で撫でられてるみたいに、少し耳に引っ掛かる声とか、もう全部。人は見た目が重要らしいけど、目には見えない物も見えてると思うんだ。雰囲気とかオーラとか言うやつだと思う。
「じゃ、適当に座ろっか」
「あ、うん」
投網漁が、さるすべりとは反対の道路側に動き出したけど、私はさるすべり側に座りたかったので、そっちへ動いたら、投網漁も何気なくこっちへ来た。ほうほう、なかなか。
椅子に座ると、日陰に入って涼しかった。テーブルの上には、背が低くて口が広いグラスに四角い紙ナプキンがつっこまれていた。私の側からは、その紙ナプキンに印刷された店名が見えた。
百日紅
かったい鉛筆で、ガリガリ彫るようにかかれた文字が、黒いインクで不器用に並んでいる。
「ねぇ、これ、お店の名前なんて読むのかな」
私は全く頭を使わずに思ったことを、そのまま口にだしていた。
「えーと、なんだっけな、これ、なんか見たことある」
投網漁はなかなか真剣な顔をして、腕を組んだ。どうやら彼、なかなか真面目に網を繕っているようだ。感心感心。
そこへさっきの私好みの店員さんが戻ってきたので、私は下心も交えて店名を尋ねてみた。
「それはさるすべりと読みます」
どうしよう。店員さんは接客業なのに凄く無愛想で、でも、見た目が良いから、だから好きかもしれない。
そうだな。一週間に一度ぐらいの頻度で通ってしまおうかな。私はコーヒー一杯500円というメニューを眺めながら、そう思った。
あ、でも、二日後ぐらいには、また来てそう。