三度目の指づめ
『トットと失せな。酔っ払い!!』
自然にあたしの前に立ちはだかる。ふわりと優しい薫りがした。
『あぁ゛?!』
刹否、たじろいだ親父は二、三歩後退り距離を空ける。
その面には先程までの優越感はみじんにも伺えない。明らかに腰を抜かしていた。
まるで…負け犬並だ。
尻尾を垂らしながらも負けじと唸り声をあげる。弱さの裏返しだ。
『消えろって言ってんだ。警察呼ぶぞ。てめぇなんぞ障害容疑で運ばれな。』
息継ぎ無しの棒読みで、今にも引き締まった筋肉美の拳が親父の鼻っぱしらにめり込みそうな雰囲気がジリジリと漂う。
空気をさぇチクチク感じた。
『あぁ゛?!!るっせ…っ』
まだ親父が口を歪めている時に矢の様に放たれた拳が顔面の丁度眼鏡とこめかみの間に直撃した。
スカーっとする爽快感。
まるで…射精した時の様だ。
スローモーションのポラロイドの様に親父は秒刻みでコンクリートに滑り込んだ。
脂肪の塊がバウンドする。
それは、水風船が床に叩き付けられる時の様な脆さだった。