三度目の指づめ
『そぅ。あんた、苦労したのね。』
おえつに溺れるあたしの前にしゃがみ込み、頭の後頭部から優しく撫でた。
それ以上何も聞かなかった。
だから、あたしもあえて何も言わなかった。
いゃ、言えなかった。
鳥肌が立つほど暖かい。
スッポリと頭全体を覆う大きな掌。
あたしはずっと…この掌を待っていたんだ。
愛情の篭った温もりを。
『ウチ、来るかい?!』
不意に耳に入る台詞…
『えっ?!』
思わず顔を上げた。
泣き腫らした瞼を気にもせずヤケに狭くなった視界に真っ直ぐな目の彼女がいた。
心からの救済…
その時あたしは、只雨音だけに意識を集中させる。
あたしの人生が大きく変換する瞬間…
『ぅん。』
静かに上下させた。
水玉傘にはアンバランスな相合い傘が静寂を纏いネオン街に紛れて行った。
雨が少し小振りになった数秒後の出来事だった。