三度目の指づめ
躊躇していると、母親が痺を切らして顔を覗かせる。


『早くしな。どぅせ、大したもんでもなぃでしょ。』


槍の様にあたしの心臓を貫通した無神経で愛情の欠片も篭らない言葉…

同じ言葉達なのに…准の言葉と鬼の母親の言葉では格差が違がった。
まるで、殺人兵器だ。
人を此所まで窮地に追い込む事が出来る物なんだと、改めて身に染みた。


あたしは取る物も取らず、逃げる様にして白日の下、扉を後にする。
もぅ二度と帰る事が出来ないのに…ゆっくりと想いに浸る暇も許されない。

不意に、目の前を通り過ぎる、まだ幼稚園の年長さんの近所の子供。紫の帽子と制服がやけに艶やかに映った。

また、買い物袋を両手に下げ、まるで、天秤の様に大きくフリコを揺らし歩く、下っ腹が気になる主婦。そんなに、大量に買い込んでも全て血となり肉となる。全く悪循環だ。

そのすぐ側には、道の真ん中に列を作り、たわいもなぃ話に高笑いするバギーを押した若い母親達。高校卒業と共に孕んで産んだ結果が、これだ。夢も希望も全て消失し、昼間から馬鹿笑いをあげる。
それを唯一静止させる事が出来るのは、鼓膜を裂く様な赤子の悲鳴だけだ。
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