三度目の指づめ
枯れた蟻
煙たげな部屋一杯に広がる、線香の匂い。
正方形の部屋に敷き詰められた黒だかりの泣きじゃくる群れ…
狭いその部屋ゎ絶望色に染まっていた。
蒸せ返る灰が天井全体に這ぃ回る。まるで大蛇の様に…
ぅねぅねした尾を引き延ばす姿ゎゆったりと螺旋を描き昇って行く。
静まり返る空気が漂う。
あたしゎ驚く程冷静に辺りを観察していた。
向かって右側の男はひたすら目深を伏せたまま微動だしない。拳を握り正座した膝の上に沿えたままただ悲しみを受け流す…その姿ゎ雄大で背後に漂う寡黙をひしひしとあたしに伝わった。
しかし、向かって左の初老の女は甚だしく異なって醜かった。
正座した膝はだらしなく開放されその隙間からはババシャツの浮いた肌色を覗かせている。
ストッキングが目に飛込んで来た。
葬式にストッキングなど場違いも甚だしぃ。
まるで…結婚式に菊を持参する様だ。
浮いた行為に気付きもせず悲嘆に泣き叫ぶ度に鼻水を吸い込むrealな音が響き渡る。
ジュルジュル…
余りにもおぞましい不快な音に自然に眉間に皺を寄せた。