三度目の指づめ


母親は…それでも、こなかった。



娘が自殺未遂をしていても、生死の危機をさ迷っていても、こなかった。
顔を見せなかった。
正直、あたしは顔面蒼白な顔で取るものも取らず、一心不乱に駆け付ける、そんな母親を期待していた。そして、無事なことを知ると、泣き崩れる様に安堵を示すんだ。
そんな、当たり前の行動を待ち侘びていた。
でも、母親は…こなかった。
電話一本なかった。
只のありふれた日常がそこにあって…過ぎて行った。


それから、あたしは病院が恐くなった。
次に、生死を争う大事故が起きることを恐れた。意識がなくなってしまえば、本当に見捨てられる。壊れた玩具みたく捨てられる。
幼かったあたしは…ただ、病院という、遺体安置所に行くことを嫌がった。
まだ、家にいれば、母親はあたしの存在を認めてくれた。

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