まい ひーろー 【短】
それからもあたしは毎日練習を眺めた。
先輩はあたしに気づくと手を振ってくれる。
あたしはそれがなんだかこそばゆくて、控えめに手を振りかえしている。
休憩になるとたまに先輩は話しかけにきてくれたりもする。
いつもと同じ、当たり障りのない会話。
『相崎さんは何で準備室にいるの?』
いつも通り、頬ずえをついた先輩が話しかけてくる。
『勉強するのに使わしてもらってるんです。』
あたしは握っていたシャーペンを止めて顔をあげた。
『へ?なら図書室でもいいじゃん?』
…痛いとこをつかれた。
なんて答えればいんだろ?
『……ここの方が静かなので。』
そう答えると
『ははっ!勉強なんてしてないくせに!』
よく言うよ!って意地悪く笑う。
…これも、先輩と話すようになって知ったこと。
先輩は、たまに意地悪だ。
『…勉強だってしてるもん。』
ちょっとずつだけど…。
唇を軽く尖らして反論すると先輩はさらに笑いだす。
『じゃあ、お勉強がんばって?』
先輩はやけに嫌味たらしく勉強を強調してそう言い残すと練習に戻っていった。
…なんの進展もないけど、ただ見つめていた頃よりは幸せ。
先輩と話せた日は勉強もなんだかはかどるんだ。
それから先輩は、校内ですれ違ったときも話しかけてくれるようになった。