まい ひーろー 【短】
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いっぱいいっぱいな脳内は既にキャパオーバーなわけで、働いてくれない。
よく、状況が理解できないままただ呆然と立ち尽くしていた。
なんとなく、このおじさんがあたしに痴漢してたんだろうなってことはわかるけど…。
あたしだけではなく、コチラの世界に戻ってきたらしい周りに居た人たちも、パチパチと瞬きを繰り返しながらおじさんを見ていた。
『あー…、すんません。
…俺、足癖悪くって。』
後ろから聞こえる声に慌てて振り向くと、市内の高校の制服を着た男の人。
彼は片足をあげたまま立っていて、そのポーズはまさに蹴りました。とでも言いたげだ。
…あ、この人がおじさんを蹴ったんだ。
たっぷり5秒刻んでやっと、そう仮定した。
{な、なにするんだね君!!?}
集まっている視線が余程痛いのか、おじさんは焦ったように辺りを見回す。
『…おっさんこそ何してんだよ?いい年こいて中学生に痴漢とか、変態?』
そう返す彼の声は、人を馬鹿にするかのような笑いを含んでいたけど、ゾッとするくらい低かった。
{ひっ!}
おじさんはそう言って肩を震わし、走りだそうとしたけど、一部始終を見ていたらしいサラリーマンの人たちが取り押さえてくれた。
『…大丈夫だったか?』
彼はさっきの怖さを感じさせないくらい優しい声で、突っ立ったままのあたしに話しかけてくれて、
助けてくれたんだ。って安心感からか、
あたしはヘタリと座り込んでしまった。