まい ひーろー 【短】
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『おい?』
大丈夫か?
そう言って差し出される右手。
だけどあたしはその手に掴まることはなく、ただ泣いた。
その自分より大きくて、男らしい手が、嬉しくて。
堪えてた不安とか
助けてもらえた安心感とか、
もう訳もわからずわんわん泣いた。
『…怖かったな。もうへーきだからな?』
ゆっくりと頭を往復するのは、その彼の右手。
少し骨ばった手は、優しくて、暖かくて。
見上げると彼は薄く微笑んでいて、その表情を見たとき、
…きゅっ、と胸が締め付けられたのを感じた。
トクトクと脈打つそれは、まるで甘い波を起こすようで。
その甘さは、あたし全体を包むまで止むことはなかったのだ。
そのあと、彼はあたしが泣き止むまでずっと側にいてくれて、結局家まで手を引いて送ってくれた。
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…それからずっと、彼、…矢竹隼人先輩はあたしのヒーロー。
甘くてやさしい、憧れの人。