大人になれないファーストラバー


急いで自転車にまたがって坂の下まで走った。
キコキコが大きくなって聞こえる。



荒くなった息を整えるように湿った空気を吸い込み、振り返る顔を想像しながら声を張り上げた。






「蕾っ」





透明のビニール傘の回転とともに蕾の歩みがぴたっと止まった。




「お前今までどこいたんだよっ」




声がでかくなったのは怒ってるんじゃなくて。
気持ちが溢れたというか、そんな感じだ。




風に煽られてよたりながら振り返る蕾。
昼休みにストレートにした髪は湿気にやられてクセ毛に戻ってきてる。



どこで手に入れたのか分からないが傘のおかげで見たところ濡れていないようだ。





「サクだってそうだよ。お互いさまだよ。」



蕾は傘をくるくる回して相変わらず感情のこもらない声で言う。




「バカヤロっ お前は女なんだから危ねんだよっ 一人歩きのリスクがちげんだよっ」




急ではない坂だが、左肩がそろそろ悲鳴を上げそうだったから自転車を降りた。

そしてズンズン坂を登って行くと、



「リスク? 知らないよ」


と、俺の怒った口調にちょっとむっとしたようで、対抗してくる蕾。



「知っとけよっ」ってまた強く言ったら、蕾は唇を尖らせて背を向けてしまった。


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