大人になれないファーストラバー
俺のことなんか無視して歩いて行ってしまう蕾。
「待てってっ」
俺はキコキコキコキコとかっこうのつかない音をさせながら追いかけた。
大股で早歩きしてしまえばすぐにその距離は縮まって。
昔は蕾より歩くのが遅くて、この坂で早歩きの練習をしたことを思い出す。
"サク遅すぎー"
今よりいくらか高い声でそう言われたことが悔しくて、足の裏がつりそうになるほど練習したっけ。
身長も蕾のほうが大きくて、足の長さも俺のほうが負けてて。手の大きさも、何もかも全部惨敗。
けど、たぶん今は…
蕾の歩く速度にゆうゆうと追いつき、カーディガンでほとんどが隠れているその手をぐっと引っ張った。
案の定驚いた顔で振り返る蕾。
思ったよりも顔が近くて、俺も内心どっきりした。
そして、ふと。
握った手が異様にあたたかくて、自分の手が冷えきっていたことに気がつく。
それでそんなに驚いた顔をしたのかと、握る手に自信をなくした。
『冷たくてごめん。』
なんて。今謝ったら、手のことなのか、それとも今日一日素っ気ない態度とったことに対する謝罪なのか。
どっちなのかって思われそうだ。