大人になれないファーストラバー
"サクと一緒じゃ、大人になれないからだよ"
それはエコーがかかったように頭のなかに繰り返し響いた。
蕾の成長が止まったって聞いた時は、正直離れることを考えた。
そんなことになってしまった蕾のそばにずっといるなんて言う覚悟ができなかったから。
"好きだから"だけで乗り切っていけるのだろうか。
それが不安だった。
「蕾ぃ…っ」
意味なんてなくてただ呼んだだけ。
その時、ドタドタと言う階段を駆け上がって来る足音が聞こえた。
その足音はこの部屋のドアの外の辺りに近づいてきて。
「蕾大丈夫っ」
「どうかしたのかっ」
と。
蕾のおばさんと、2日前に単身赴任から帰ってきたおじさんの声がした。
鍵がかかっているらしいドアをドンドンと叩く音が響く。
けど。俺は今はそんな二人の存在はどうでもよくて。
それよりも、蕾が言った言葉に愕然としていた。
「…大人になれないってどういうことだよ」
俺は、さっきまでとは打って変わって、低すぎて掠れそうな声で静かに呟いた。
「そのまんまの意味だよ。手、離して。」
なんでこの女はいちいち気にさわるような口を聞くのだろうか。