大人になれないファーストラバー


あれから何があったのか、ぼんやりとしか思い出せなかった。


蕾に何をしたのかもよく分からない。



ただ、口の中に広がる苦い血の味は、あの瞬間確かに殴られたことを物語っていた。




ドアを破って中に入ってきた蕾のおじさんは、俺の姿を見るなり掴みかかってきた。





俺は、その勢いで床に倒れ込んで頭を強く打ち、ぐらぐらと揺れる視界のなか、なんとか立ち上がる。

それから、入口に立っていたおばさんを押し退けて外に飛び出してきたのだった。





雨のにおいが立ち込める空気を切り裂きながら闇雲に走る。

坂を下る手前で、今まであったことを顧みるように振り返った。





…情けない。

何やってんだ。俺は。





歯をくいしばって、うつむいてそう思った。




押さえつけていた蕾の手、離した瞬間に微かに見えたのだが、赤い跡がついていた。





また傷つけた…?




頭の中にそんな言葉が浮かぶ。




ただそばにいたいだけなのに、なんでこんなに上手く行かない。


ただそばにいたいだけなのに…


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