大人になれないファーストラバー
ポツポツと、地面に染みが出来始める。
…雨。
雨が降ってきやがった。
コンクリートに落ちて時々弾ける雨粒を見ながら。
蕾のそばにいたいという気持ちも、蕾の病気のことも、全部全部投げ出して、ここから逃げてしまくなった。
「かさ、いる?」
思い詰めて、押し潰されそうになったそんなときだった。
いつからそこにいたのか、俺のすぐ隣にしゃがみこんで傘を差し出している男がいた。
「傘、いる?」
どこかで見たことのある顔。
その漆黒の両の瞳はじっと俺を映していた。
「…雨音ヒロ」
いつか、タケちゃんに捜索を頼まれた人物のことを思い出した。
高一の冬に依頼されたのだけど、結局行方は分からず仕舞い。
「アマネヒロ?」
雨音ヒロは、俺を見上げつつ首を捻ってその名前を繰り返した。
「泣いてるの?」
そして、続けてそう問われた。
夏なのにも関わらず長袖を着て、白すぎるほど色白の顔を近づけると、目の奥まで見通すかのように俺の顔を覗いてくる。
「泣いてない。」
初対面のやつにそんなこと言われる筋合いはない。
確かにさっきまでは涙を浮かべていたかもしれないけど、今はもうからからに乾いている。