大人になれないファーストラバー
「泣いてる。心が。泣いてる。」
ズカズカと境界線に踏み込むように、雨音は躊躇なく言う。
「なんでそんなこと言う」
「ココロが泣いてるから。教えてあげた。気づいてないキミに教えてアゲタ。」
雨音はまるで歌でもうたうかのように、すらすらとごく自然にそんな言葉を並べた。
「お前、わけわかんね」
言って、眉間にシワを寄せ、全部知っているようなその瞳から逃れようと顔をそむけた。
「大切な人の手ハナシタ。 ずっとコウカイしてる。 ココロ壊れてもなお、オレはまだ生きてる。」
雨音は今度はほんとうに歌い出した。
やんわりとした声で重い歌詞を口ずさむその様子はどこか矛盾しているように見える。
「いつまでもサヨナラ言えないオレだから、先にサヨナラ言ってくれたアナタはセカイチいとしい人。」
サヨナラ、サヨナラ。
と、笑ったまま歌い続ける。
なんだか雨音が自身のことを歌っているようにも聞こえた。
「泣いてるのか?」
今度は俺がそう聞く。
そしたら雨音は。
「泣いてるよ。泣けないことに泣いてるよ。」
引き続き微笑んだままでそう言った。