大人になれないファーストラバー
「涙、出ないのか?」
長いまつ毛を数回上下させると、雨音は「うん」と言って頷いた。
「レインは泣けない。泣けるキミがウラヤマシイ」
"レイン"と言う言葉が雨音自身を指す言葉だと分かるまでに数秒かかった。
ふいに雨音の手が伸びてきて。
なんとなく、俺は、頬にその手が届くように屈んでやった。
朝露に濡れた草のような、少し湿っぽい指先が口元をなぞる。
「カナシミ表せるその涙、オレにも分けてホシイ」
雨音の指は頬を伝って目尻に到達した。
「ねえ、今泣ける?」
静かな瞳でそう聞いてくる雨音。
「…泣けるよ」
そう言った俺の声は低かったけれど、どこか優しくかった。
さっきまでトゲトゲしていた感情は今はすごく穏やかで。
かたくなっていた心がほぐれたように、一筋の涙が頬を伝った。
「レインも涙流せれば、キモチちゃんと伝えられた。 カナシイってちゃんと分かってもらえた。」
雨音に頬を包まれるようにして、俺は次々溢れる涙を止めようともせず。
ただ静かに泣き続けた。