大人になれないファーストラバー
「よう」
そいつは、3日間ぐらい寝てなさそうな不健康な顔で声をかけてきた。
「なんでいるの?」
「待ち合わせしたじゃん? そしたら寝られなくて、昨日の夜からここにいる。」
煙草を口から離し、煙をはいて。そいつは手招きしながら言った。
「寝てないの?」
うん、て返事が返って来て。
その手招きに関係なく自分の意志で近づいて行った。
「不健康なことが趣味なんでしょ?」
煙を手で払いながらそいつの正面に立った。
「別に趣味じゃないよ。趣味は写真。」
煙草を備え付きの灰皿に押し付けて火を消すと、そいつは手を伸ばしてきた。
その行く先はあたしの手。骨っぽくて意外と大きい手がやんわりと包み込んでくる。
「一晩よく考えたんだけど、やっぱり一緒に行くって話しナシにしよう。」
そいつは色素の薄い目であたしを見つめた。
まるで満月みたいな色のその瞳は、一瞬時間を止めたかのような気がした。