大人になれないファーストラバー
咲之助とはあの日以来話していない。
咲之助が、「俺と一緒だって大人になれるよ」って言ったあの日以来。
あたしは、視界の隅の咲之助に顔を向けるかそれとも無視するか、どちらにするか迷っていた。
気持ち的には見たいのだけど、勇気が出せない。
咲之助は仮にもマユナの彼氏だ。今は人のものなのだ。
そんな、誰かの所有物(物ではないのだけど。)になった咲之助は、幼なじみとしてはなんだか妙に話しかけずらくて。
自分で突き放したこともあるし、好きな人でもあるわけだし。
やっぱり咲之助のほうを見ることは出来ない。
「蕾っ 帰りどっか寄ってこっ」
机の上にあったあたしの手をぎゅっと握って観月は言った。
あたしははっと我に返って、どこに焦点を合わせていたのか分からない目を観月に向ける。
「あ、うん。 アイス食べたい」
そう答えて、再び視界の隅に目は向けないまま神経を集中させると。
咲之助はもうこっちを向いていなかった。
変な緊張から逃れられて体からは力が抜けたけど、心では寂しく感じていた。