大人になれないファーストラバー
名残惜しさからついつい咲之助のほうに視線を向けてしまう。
公然とは見られないから、控え目にうつ向き加減で気付かれないようにちらっとだけ見ると。
「咲之助っ ここ分かんなーいっ 1ページ目の問2っ」
咲之助の背後からマユナが抱きついていってそんなことを言った。
ちょうどそんな場面を見てしまい、やっぱり見なければよかったって後悔して目を逸らした。
「蕾ーっ 問2分かったよっ」
心が沈みかけた瞬間、観月の明るい声がそれをすくいあげてくれる。
「え、ほんと?」
「ほんとっ ほらっ」
「アヤ頭いいー」
合ってるかどうかは分からないが、答えらしいものを書けたという事実に素直に感動した。
「よしっ じゃぁ解けたし帰ろっかっ」
観月は問題集をパタンと閉じ、机に転がっていた消しゴムやらの筆記用具も片付け始めた。
「でもまだ先生に見てもらってないよ」
ちょっと真面目っぽいことを言ったら、観月は「そんなの気にしないっ」って笑う。
その笑みがなんだか頼もしくて、まあいいかって、あたしも問題集を閉じた。