大人になれないファーストラバー
「咲之助、ごめんね」
そう謝ると、佐伯は目を赤くさせて涙を浮かべた。
「なんで謝んの」
俺は出来るだけ穏やかに言った。
そのはずだったのだが、少し呆れているような口調になり、失敗したと思った。
「蕾ちゃんとこいきたいんでしょ? だからごめんね」
「別に…」
と曖昧に言ってはみたものの、続く言葉は思いつかない。
別に大丈夫。
別に平気。
別に気にしてない。
別に…
別に…
堂々巡りするばかりで、本当は何が言いたいのか分からなかった。
「咲之助?」
ベッドの白いシーツのシワを凝視したまま動かなくなった俺を、佐伯は眉を寄せて心配そうに見上げてきた。
「ん、あ、ごめん。別に謝んなくていいから」
下から見つめられ、俺は逃げ場を探して目を泳がせた。
いきなり妊娠したと言われて、でも本当は他の人が好きだなんて。
言ったら完全に俺は悪者だ。
それに佐伯のほうが絶対不安なはずだから、そんなことどうしても言えなかった。