大人になれないファーストラバー


「咲之助、ずっとそばにいてね」




握る力が弱まっていた俺の手を、佐伯は強く握る。
目を合わせない俺に不安を感じたようだった。





「うん、いるよ」





口の端を持ち上げて、思いっきり偽物の笑顔を浮かべた。
と言ってもたぶん薄ら笑いにしかならなくて、不気味に見えたと思う。




そんな不自然な表情でも、佐伯は嬉しかったみたいで、「うんうん」と頷きながら泣いていた。





「咲之助、好きだよ。愛してる」




「うん、俺も…」






アイシテル。

馴染みのない言葉。


意味なんか知ってるようで知らないくせに、何を言っているんだ俺は。






佐伯の手に引かれて俺は身を屈めた。

佐伯は上半身を少し起こすと俺の首に抱きついて来て、そのまま唇を重ねてくる。







「…ずっと一緒よ」




そう耳元で囁かれ、催眠にでもかかったように俺は意識なく頷いていた。






ふと香水が香る。


秋になったからなのか、夏に付けていた爽やかなにおいではなくなっていて、階段で始めてかいだ時のあの甘ったるい香りに戻っていた。






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