大人になれないファーストラバー
「あ~、誰かと思えば観月くんの彼女さんじゃん」
"元凶の象徴"――佐伯マユナは奇妙な笑みを浮かべてそう言った。
「サクをバカにするなっ」
マユナとその両隣に立っている女子二人に凝視され、怖さで膝が笑う。
そんな震えを誤魔化すように、ぎゅっと目を瞑って咲之助を思い浮かべた。
「観月くんの彼女にそんなこと言われても、ねぇ。あんたカンケーないじゃん」
「カンケーあるっ」
「はあ? 意味分かんない」と、片眉を上げてあからさまにうっとうしそうな顔をするマユナ。
「あたしサクのこと好きだもんっ」
「バカじゃないの? 自分が何言ってるか分かってんの?」
「分かってるよっ 少なくともあんたよりはっ」
スカートの裾を握りしめ、何も考えずにただ叫んだ。
「うざっ あのね、今咲之助はあたしと付き合ってんのっ」
「そんなの知らないっ」
と、むちゃくちゃなことを言った。
観月のこととか、記憶のことか大人になれないこととか。
悩みはたくさんあるけれど、今は咲之助のことで頭がいっぱいだった。
あたしはマユナたち脇を通り過ぎ、図書室のドアに向かった。