大人になれないファーストラバー
体を支えようと近くにある机に手を伸ばしたが上手く掴めない。
だんだん傾いてく視界の端に見えた棚に、あろうことか頭をぶつけて床に倒れ込んだ。
一瞬目の前が真っ黒になる。
意識が暗闇に沈んで行くような感覚に襲われ、それに必死で逆らった。
視界がチカチカと白黒の画面に切り替わると、あたしを見下ろす三人の姿がおぼろげに見えた。
「さ、咲之助は渡さないからっ」
そんなことを吐き捨てるように言うと、三人はバタバタとどこかへ走っていった。
「さく、のすけ…?」
三人のうち一人が言っていた誰かの名前を繰り返した。
記憶がリセットされてしまったようについさっきまでのことが思い出せない。
ここがどこなのかも、あの三人が誰なのかも。
なぜかじんじんと痛む頬が冷たい床によって冷されてく。
倒れたままで思考してみるけど、分かったのは自分の名前が「蕾」ってことだけ。
顔の前にある手をじっと見つめて、握ったり開いたりしてみる。
何を確認するでもないのに、取りあえず体を動かせることには安心した。