大人になれないファーストラバー
目を瞑れば思い出す。
きみと違う道を選んだあの日。
『俺と一緒だって大人になれるよ』
今にも泣きそうなきみの唇が首筋に当たる。
何をされているのか分からなくて、すぐには反応できなかった。
痛いほどきつく押さえ込まれた手。振りほどこうと抵抗した。
「やだっ」
いつだってきみの前では素直になれない。
気持ちと心は正反対のことを叫んで、自分でもよく分からないんだ。
「…蕾」
そう呼んだきみの顔。
ああ、なんて顔をさせてしまったんだろう。
こんな悲しそうな顔をさせてるのは紛れもなくあたしだった。
すがりつくようなきみの口づけも。
本当は嫌じゃなかったんだ。
このままきみと大人に…。
余計なことなんか考えず、それだけ思えればよかったのに。
いつか素直に「好き」と言って、きみが受け入れてくれたら。
手をつないで一緒に歩きながらだんだん大人になって。
そして将来誓うんだ。
「ずっと一緒にいて」って。
小さい頃はそんな未来を思い描いていたよ。
あの頃、あたしが一緒に大人になりたかったのは、咲之助だったんだよ。
今だって…