大人になれないファーストラバー
今だって、そう。
「サク」
咲之助のこと以外思い出せないのに、なぜか何も怖くなかった。
自分の家も分からないのに、大丈夫だった。
"好きな人"と書かれた紙を握りしめたまま、どこだか分からないこの場から走り出た。
「うおっ」
するとちょうどそこを通りかかった誰かにぶつかりそうになる。
「な、名取っ 今までどこにいたんだよ」
黒髪の短髪に黒い肌。
背はあたしより遥かに高い。
その人は何やらすごく焦ってるようで、早口でそう言った。
「朝からずっと探してたんだからなっ」
「ごめん」
なんだか状況が飲み込めないが、怒っているみたいだから謝っておく。
「まあ、いいけどさあ。 タケちゃんすごく心配してたから顔見せときなよ」
「うん」
タケちゃん?誰?
と出かかってやっぱりやめた。
「あたし、ちょっとサクんとこ行って来る」
簡潔に言って、その場から走り去ろうとすると。
「え、やめといたほうがいいって。学校やめたの聞いた?」
その人はぎょっと目を見開くと、苦いものでも食べてるみたいな顔をした。