大人になれないファーストラバー
3人のケンカしている声は実に無邪気で、楽しそうに聞こえる。
今の俺にはその光景が眩しくて、軽くため息をついてその場を離れようと歩き出した。
すると、間もなくズボンのポケットの中でケータイが振動し出した。
甲高い声で言い合いをする3人に背を向けて、『阿宮』と登録してあった番号からの電話に出る。
「もしもし、何か?」
『うわ、暗。』
どうやら相当沈んだ声音だったようで、阿宮は用件の前にそんな反応をした。
それにむっとして、
「なんだよ、イタ電かよ。」
と言い返してやった。
『イタズラじゃなくて。 名取が…』
「え、蕾?」
"名取が"
もう一度頭のなかで繰り返した。
その言葉の続きをいくつか予想してみるけど、どれもマイナスの想像になってしまう。
阿宮が口を開くまでほんの数秒だったのかもしれないが、俺には長く感じられてもどかしくて、先走って聞き返した。
「蕾がどうしたんだよっ」
もう完全に関係を断ち切った気でいたのに、まだ蕾の心配をしている自分がいた。