大人になれないファーストラバー
『落ち着け。 名取、お前に会いに行くってさっき学校出て行ったんだ』
「な…」
『お前に会いたいんだって。 ただ、』
「え?」
『何があったか分からないけど、名取、記憶なくしてるみたいだった』
「え、それって…」
『お前のことしか覚えてないみたいなんだよ』
阿宮が告げたその事実が耳を通って頭にたどり着いて理解した瞬間。
向こうの空が轟とともに光ったのを視界の隅でとらおた。
『もしもし? あとさ、今日これから雨降るらしいよ。 名取、大丈夫かな? 早く見つけてやんないと』
遠回しに応援してくれてるような心配を煽るような阿宮の言い様に、萎れかけていた"本当の気持ち"がまた起き上がってくる。
「阿宮、ありがとう」
『おう』
何も言わなくても言葉の裏の意味を汲み取ってくれる阿宮。
考えてみるといつもけっこう助けられてるなって思う。
『じゃぁ、幸運を祈る』
「おう」
阿宮が切るのを待ってからケータイを耳から離した。
もうすぐ雨が降ってくる。
強くならないうちに早く蕾を見つけないと。
ふと、前にもあった、似たような出来事が頭をよぎる。
なんだかあの時の真っ直ぐな気持ちを少しだけ思い出せたような気がした。