大人になれないファーストラバー
蕾を思えば思うほど、会いたい気持ちがどんどん大きくなる。
走って乱れた呼吸に比例して、空模様も怪しくなっていった。
無闇に動き回ったらすれ違いでなかなか会えないかもしれない。
けれど、探さずにはいられなくて、学ランをところ構わず脱ぎ捨てて全力で走っていた。
走っている間、確かに前方の景色が目に映ってはいるものの、頭を巡るのは蕾の姿だけだった。
白い手。
ウェーブの長い髪。
小さい足に小さい背。
無愛想な顔。平坦な声。
まるで自分の体がそれで出来ているかのように、体中蕾のことでいっぱいだった。
だもの、忘れられるわけがない。
空気みたいにあって当たり前の存在だけど、絶対になくてはならない存在。
普段意識してない分、なくした時の損失感も大きくて。
公園付近の割りと広めの道から民家の立ち並ぶ狭い道へと入った。
曲がり角が見えて、そこは曲がらずに突っ切ろうとすると。
「わっ」
誰かと衝突しそうになり、咄嗟に反対側に体重を移動させてなんとか回避した。
が、ひびの入ったコンクリに倒れ込み、肘を打ち付けて腕に痺れが生じた。