大人になれないファーストラバー
なんとも言えない痺れにうめくことも出来ず、歯をくいしばった。
「ダイジョブ?」
痛みに耐えつつ、その声の方を振り仰ぐ。
すると猫のような二つの目が俺を見つめていた。
「ダイジョブ?」
細い顎に小さく収まった口はもう一度とそうつむいだ。
「…雨音」
冬なのに七分丈の袖のロンTにジーンズ。
どう見ても季節外れの格好のそいつは、夏以来姿を見掛けなかった雨音ヒロだった。
雨音は俺の鼻先に手を差しのべて。長いまつ毛に引っかかった金色の髪を、瞬きの度に一緒に上下させた。
差しのべられた手は華奢で、掴まっても引っ張り上げてくれるのかどうか心配になりながら取りあえず手を乗せてみる。
「また会ったネ」
そう言うと、雨音は俺の心配をよそに意外にも力強く俺の手を引っ張る。
「ねえ、傘いる?」
そしてそう言いながら俺の手を離し、自分の背に背負った何本もの傘に手を伸ばした。
「え、傘?」
雨音の背にある傘の束と灰色が濃くなった空とを交互に見やった。