大人になれないファーストラバー
はたと自分の体勢を確認すると、雨音の上に乗っかったままだったことに気づく。
そこにタイミングが悪いんだかいいんだか、買い物帰りのおばちゃんが通りかかった。
「あら、ヤダ」と小さく呟くと、白い目を向けながら俺たちの横を通り過ぎて行く。
俺たちから数歩離れたとこまで歩くと、おばちゃんは右と左とでデザインの違ったサンダル(おそらく間違って履いて来たのであろう)でいきなり走り出した。
「…悪い。」
居たたまれなくなって、のそのそと雨音の上からどいた。
「…いや、大丈夫だよ」
口ではそう言ってるものの、雨音の笑顔はひきつっていた。
おばちゃんにどんな誤解をされたのかはさておき。
雨音は、立ち上がると、もったいぶらずに俺の質問に答えてくれた。
「好きな人は、うん、君の言うようにその病気だった。 俺が口べたなせいで亡くなっちゃったんだ。」
「口べた?」
「うん。その人が欲しかった言葉を言ってあげられなかった」
俺が引き倒した拍子に道に散らばった傘を拾いながら、雨音は続けた。
「彼女が欲しかったのは、"悲しみを全部背負ってくれる人"じゃなかったんだ」