大人になれないファーストラバー
民家の間の狭い道に、雨音の声が控えめに響く。
「じゃぁ、その人は本当は何が欲しかったんだ?」
傘を拾うのを手伝いながら問う。
「さあ…。なんだったのかな。"ここ"では分かるんだけど…」
雨音は胸に手を当ててそう言うと、しばらく考え込む。
雨音は傘を拾う手も止まっていたので、変わりに俺が残りの傘を拾い集めた。
「…んー、言葉には出来ないな。口べたでごめん。」
拾った傘を雨音に託し、さっきもらった紺色の傘だけが手元に残った。
「いや、別に。なんか辛い過去聞き出しちゃって悪かったな」
「ううん、全然。」
雨音は細い両の腕で傘の束を抱えて、綺麗に微笑んだ。