大人になれないファーストラバー
雨は次第に強くなり、前髪から額にかけて、滝みたいに雨水が滴り落ちてきた。
隣街の方ではさっきから雷が光っている。
こっちの街でも落雷注意の放送が流れていて、みんなどこかに避難したのか、外を歩いている人間はほとんど見かけなくなった。
もともと落雷の多い地域だから、ここら辺の住人は急な雷にもまあまあ対処できる。
けれど、小さい頃は正体不明の光を怖がらないわけがなくて。
雷鳴が轟けば、必ずどちらかの部屋で蕾と二人で身を寄せ合い、机の下に息を潜めたりしていた。
小学校までは二人でも余裕で机の下に入れたけれど、中学に入ると途端に窮屈になった。
蕾だけが机の下に潜り、俺はその前にどかっと座って雷が止むのを待っていた。
そしてまたいつかの雷の日。
雷が止み、にわかに太陽の光が戻ってくると、さっきまで怖がってたはずの蕾は何くわぬ顔でこう言った。
『サク、雷が見えたら机の下に来てね。』
あの時は、何気ない言葉にしか聞こえなくて。
『うん』て何も考えずに答えた。
けれどそれが、今はとても大切な約束のように思えた。
そう意識すると、幼い頃に交わした他愛ない言葉のなかに、いったいいくつの約束を見落としてきたことだろうか。
今さらになって必死に思い出そうとしている自分がいた。