大人になれないファーストラバー



ワイシャツを肌に貼り付かせながらビチャビチャと走った。


息をきらせて立ち止まったのは蕾の家の前だった。




そんな豪勢なものではない家の前の門が開けっぱなしになっていて、明らかに誰かが出入りした形跡がある。



家の窓を一つ一つ見上げてもどこも明かりはついてない。



二、三段段差があるだけの低い階段を上がり、2/3ほど開いている門から中に入った。

相変わらず門はそのままの状態で、誰かが帰宅していないと開いていないはずの玄関口に立つ。



ドアノブに手をかけると、カタンと言う音がしてノブが下へ動いた。




鍵は開いていた。

それが泥棒ではない限り、家の中にいるのは間違いなく蕾だろう。





間違ったやり方で大人になろうとして蕾を傷つけたあの夏以来、この家には入っていない。



少し重いドアを開け、薄暗い家の中に足を踏み入れた。



入ってすぐ目のつくところにある慣れ親しんだ階段。
手すりをそっと握って、一段一段上がっていく。



二階にたどり着くと、懐かしいにおいを感じた。



向かって左におばさんとおじさんの部屋。

そして。



右側に佇むドアの向こうが蕾の部屋。




ドアの前に立つと怖じ気づいたように動けなくなった。
どんな顔をして蕾に会えばいいのか分からなかった。


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