大人になれないファーストラバー



朝一緒に登校していた時には、毎朝なんともなく入れていた部屋なのに。




…なんでだ。
今は手が震えてノックすら出来ない。

思うように動かない手を思いきり握りしめてみても、それはおさまらなかった。




ふいに佐伯の顔が浮かぶ。
さっきまで「蕾、蕾、蕾」って、それだけしか頭になかったのに。





やっぱりもう無理なのか?
俺たちは「幼なじみ」っていう関係にも戻れないのだろうか―。






立ち尽くして何も出来ないまま、時間は過ぎていく。



情けない。
大粒の涙なんか、流すなんて。




もし部屋の中に蕾がいたら、嗚咽が聞こえてしまうかもしれないから。
震えを抑えるのに握りしめた手の甲を口に押し付けて、泣くのを必死で堪えた。





蕾、蕾、蕾、蕾、…






なあ、なんでだろう。
心のなかはこんなにお前でいっぱいなのに。

なんで声にならないんだろう。






悔しくて顔をぐしゃぐしゃにして、だけど声は押し殺して、泣いた。

コントロールが効かなくなった涙腺はひたすら涙を産み出していた。


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