大人になれないファーストラバー



「…っ」




連続して聞こえていた雷の音が一瞬止み、その時ふいに声が漏れてしまった。


そしてまたすぐに雷が轟く。



もう一度雷が止むと、今度はか細い声が部屋の奥から微かに聞こえた。










「…サク?」





呼ばれた瞬間、溢れ続けていた涙がぴたりと止まる。






「サク、そこにいるの?」





雷の妨害を受けながらもその声はしっかりと耳に届いた。





蕾の足音がドアの向こうに近づいて来る。




「サクっ」




声が聞こえると同時にドアノブが動いた。






顔が見たいよ。
手に触れたいよ。


けれど、口から出たのは正反対の言葉。






「開けるな…っ」





銀色に光ドアノブが下に下がり、そこで動かなくなる。





「どんな顔していいか、分からないんだ」






拒絶しているわけではないと、そう伝えたかったけれど、うまく言葉をつむげない。



< 390 / 423 >

この作品をシェア

pagetop