大人になれないファーストラバー




佐伯の家には何度か行ったことがあった。

と言っても無理矢理引っ張られてがほとんどだったけど。

妊娠したことを明かされてからは度々自分から訪ねていた。





同じ街の駅付近にある佐伯の家は、白くて大きくて、親が金持ちなのはその家を見ただけで想像できた。





妊娠させたとなればいずれは「娘さんを僕にください」とか、そんなことを言わなければいけないと思っていた。

けど、金持ちの親だと分かると顔も会わせずらくて結局まだ何の挨拶もしていなかった。







「サク、」





制服に着替えて久々に自転車の後ろに蕾を乗せて、出発した。走り出して間もなくたつと、蕾が微かな躊躇を含んだ声で切り出した。




「サク、あのね、マユナは…」





区切り区切りで話すその先に続く言葉がなんとなく想像できた。




「マユナは…」


「うん、分かった」




蕾が思い切って言おうとしたのを、俺は途中で遮る。


「それは佐伯本人に言わせよう」




俺がそう言うと、脇腹辺りのワイシャツを掴んでいた蕾の手にぎゅっと力が入って、
「うん」と小さく呟いたのが聞こえた。


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