大人になれないファーストラバー
自分がシンデレラには程遠いことを知りながら、構わず妄想を続行。
前触れなく「シンデレラになりたい」と言ったあたしに、「あー無理」とだけ返す咲之助。
手際よく左足のローファーも履かせ終え、家を後にした。
「サクってさぁ、あたしのこと嫌いなの?」
自転車を漕ごうとする咲之助の背中に向かって、最近ずっと聞きたいと思っていたことを何気なく訊ねた。
そしたら咲之助はあからさまにめんどくさそうな顔をして、
「はあ? お前まだ夢の中にいんのか?」
眉をひそめるその顔。年々咲之助はおじさんに似てきてるなと思う。
「もう起きてるよ」
「うそつけ」
「嘘じゃない。 で、あたしのこと嫌いなの?」
「別に」
「それじゃ分かんないよ」
「うるせっ さっさと後ろ乗れよ」
答えてくれない咲之助。
小さい頃はちゃんと答えてくれたのに。
不満げな顔をして見せると、咲之助はふいっと前に向き直った。
いくら睨みつけてももう振り返らないその背中に、へなちょこなパンチをお見舞いしてやった。