大人になれないファーストラバー


「レインもそろそろ家に帰らないと。口裂け女が襲ってくるよ。」





高価なガラスでできているようなビー玉の瞳をくりくりさせて瞬きするレイン。





「クチサケ?」



「あいつは怖い女なの。」


「コワイの? それはコワイ。」



「そうだよ。怖いんだよ。」



「コワイけど、ほんとにもう傘いらない?」





支離滅裂な、でもどこかつながっているような、そんなちょっと不思議な会話。




「うん。いらない。レイン、家に帰ったほうがいいよ」



「コワイんでしょ? オレがイッショにいるよ」





今度はあたしが目を丸くする。レインのように高価な輝きはなさそうだけど。



それにしても困ったことになってきた。
なんて答えたらこの会話は終わるんだろうか。







あたしが黙り込むと。
レインは背中にしょった何本もの傘の中からまた一本引き抜いて、あたしにくれた分の傘を補った。






「あ」




そんなレインの行動を見ていると、いいことに気が付いた。





「レイン、傘ちょうだい」





あたしがそう言うと、レインは目を細めて嬉しそうに笑った。


< 51 / 423 >

この作品をシェア

pagetop