大人になれないファーストラバー
「レインもそろそろ家に帰らないと。口裂け女が襲ってくるよ。」
高価なガラスでできているようなビー玉の瞳をくりくりさせて瞬きするレイン。
「クチサケ?」
「あいつは怖い女なの。」
「コワイの? それはコワイ。」
「そうだよ。怖いんだよ。」
「コワイけど、ほんとにもう傘いらない?」
支離滅裂な、でもどこかつながっているような、そんなちょっと不思議な会話。
「うん。いらない。レイン、家に帰ったほうがいいよ」
「コワイんでしょ? オレがイッショにいるよ」
今度はあたしが目を丸くする。レインのように高価な輝きはなさそうだけど。
それにしても困ったことになってきた。
なんて答えたらこの会話は終わるんだろうか。
あたしが黙り込むと。
レインは背中にしょった何本もの傘の中からまた一本引き抜いて、あたしにくれた分の傘を補った。
「あ」
そんなレインの行動を見ていると、いいことに気が付いた。
「レイン、傘ちょうだい」
あたしがそう言うと、レインは目を細めて嬉しそうに笑った。