大人になれないファーストラバー
傘を受け取ること数十分。
もう両手では抱えきれないほどの量だった。
あまり荷物の入ってないカバンにも突き刺すように詰め込み、レインの持ち傘をようやく残り一本までに減らすことができた。
「傘、ちょうだい」
「ハイ、ドウゾ」
最後の一本を渡す時のレインはとてもにこやかで。
人生で一番最高な瞬間でも味わうかのように歯を見せて笑った。
「ありがとう」
雨なんか降ってないし、今こんな大量に傘をもらってもこの後どうするかとか。
いろいろあるけれど、レインがそんなふうに笑うから、不思議と口から「ありがとう」が自然に出てきた。
「ドーイタシマシテ」
レインは軽く首をかしげ、はにかむようにそう言う。
そして満足そうに鼻歌を歌い出したかと思えば、いきなり体の向きを変え、あたしが歩いて来た方へと走り出した。
目をぱちくりさせながら暗闇に飲み込まれてくレインを見送り、「変なの」と呟く。
はっと、大量にもらった傘のことを思い出し、足元に置いたカバンに目を落とした。
見た瞬間、この後の傘の処理に関する問題はいっきに解決した。
あんなにあった傘がきれいになくなっていたのだ。