大人になれないファーストラバー


ただ、手に持っていた一番最初にもらったピンクのビニール傘は残っていた。





再びレインの背中を目で追うと、もう完全に暗闇に紛れて輪郭もはっきり確認できなかった。




でも。
レインが街灯の下を通過するほんの一瞬だけ、白っぽくぼーっとした光に映し出された背中が見えた。

出くわした時と同じく、傘を目一杯しょいこんだあの背中が。






「…やっぱ、変だ。」






道端で独り言をかますなんておかしな子に思われるだろうけど。

生憎今はあたし一人だけしかこの道にはいない。

気を使う必要もなく、そう言わずにはいれなかった。





訳の分からない体験をしたわりには気分がよくて。

去り際にレインが歌った鼻歌を真似してみた。
が、うまくいかない。





ふんふんふーん。

そうそう。こんな感じ。




調子づいてくると、空に向かって突きつけた鼻先に、冷たいものがポツリ降ってきた。




ポツリ。
またポツリ。






夕日がきれいだった日に雨が降るなんて、おかしなかことだが。
これは紛れもなく雨だった。




さっきもらったばかりピンクのビニール傘をさっそく広げて空に掲げる。



レインがどこかであの大量の傘を全部広げてまるでテントのように雨宿りしてたらおもしろいなって。

勝手にそんなことを思いながら。



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