大人になれないファーストラバー
第2章 さくらんぼ/咲之助
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アメリカンより国産っぽい淡い色のほうが好き。
ピンクと山吹色が混じり合う二つの小さな粒。
たまに一つだったり、三つだったりするけど。
やっぱり二つのやつがいい。
酸っぱさと甘さが混在しているとこが、たぶん好きの理由。
酸っぱいだけのときもあるけど、それが失敗作だと思ったことはない。
それも含めて全部が好きだから。
いつから好きなのか、親が言うには"歯がない時から"。
つまり生まれた時からだって言いたいんだと思う。
生まれた時と言えば、覚えているのは同じ日に生まれたとかで隣に寝ていた赤ん坊の頬に噛じりついたこと。
薄紅色に染まった柔らかいそうなそれに、何を思ったのか、親がいる前でいきなりカパッとかぶりついて離れなかったらしい。
その時のおぼろげな記憶として、唯一はっきりと覚えてる言葉がある。
母さんが半ばふざけたように言ったあの言葉。
『お嫁に行けなくなっちゃったらこの子に面倒見させますから』
今でもなぜかふいによみがえって。
意味を考えてみたりする。
そんな昔のこと、たぶんもう俺しか覚えてないだろうけど。
その言葉の効力が今でも続いてるような気がして、俺は相変わらずあいつのそばにいる。