大人になれないファーストラバー
「サク、シャンプー変えた?」
走り出した自転車。
正面から吹き付ける風はほとんど咲之助が受け止めてて、後ろにいるあたしにはあんまり当たらない。
でもそのおこぼれみたいな風がたまに頬をかすめて、清潔そうな咲之助の匂いが香ってくる。
その匂いがなんだかいつもと違って、嫌がることは予想できたのについつい聞いてしまった。
「お前、人の頭の匂いかぐなよ」
予想通り、眉間にシワを寄せる咲之助。
別に嫌がらせしたいわけじゃないんだけど、最近こんな顔ばっかりさせてしまう。
「だって」
「なんだよ」
「匂いが違うんだもん」
「なにそれ」
「前のやつのがいい」
「は、知らねーし。 俺が何のシャンプー使おうと勝手だろっ」
「うん、まぁ、その通りなんだけど…」
そうなんだけど。
新しい匂いも嫌いじゃないんだけど。
ついつい意味ないこと言って不機嫌にさせてしまう。
咲之助の取り扱い方が昔と違ってきてることに気づいてるはずなのに、昔のまんま接してしまう。
「~してしまう。」
最近そればっかり。
反省してもまた同じことの繰り返し。
そろそろ新しい取り扱い説明書が必要なのかな。