この心臓が錆びるまで
「笑いすぎ」
「ッ…ごめんなさっ…あはは」
「なあ、謝る気ある?」
だめだ。先輩が可愛くて仕方がない。だって、今まで想像してきた出海翠とはあまりにも違いすぎて。「完璧な人」だとずっと思っていたのに、先輩もちゃんと人間だった。
当たり前のことだけど、それがなんだかすごくうれしかったんだ。
「近くで見ると、良いもんだな」
「え、なに?」
目尻に溜まった涙を拭いながら先輩を見ると、太陽の光を吸い込んだ深い緑が私を見つめていて。
「あんたの笑顔、すげー好き」
そう言ってすごく綺麗に笑う先輩が、私には眩しく映る。
でも、とても嬉しい言葉を言われたのに、先輩がこんなにも楽しそうに笑っているのに、切ない気持ちになるのは何故だろう。
「私は、先輩の笑顔のが素敵だと思います」
「うわ、恥ずかしい奴」
「ほんとのことです!」
そう、私なんて、全然だめだ。
私の笑顔なんて――
「先輩は、綺麗に笑いますよね」
胸が、苦しい。
先輩は私の一言に険しい顔をした。当然だ。こんなこと言われても、きっと反応に困ってしまう。だけど、本当に先輩は綺麗に笑うから。思わず口に出してしまったんだ。
私に、こんなふうに笑うことは出来ないから。