この心臓が錆びるまで


「そう、見える?」
「……え?」


 風が唄う。それは私の髪を巻き込みながら空へと舞い上がる。


「俺の笑顔は、あんたの目には綺麗に映る?」


 視界が開けた時には、そこに私を魅了する笑顔はなかった。

 まるで傷ついたような、苦しそうな顔。反応が出来ずに、私は散らばる髪を耳にかける。だけど、気付いた時にはその手は先輩へと伸びていた。

 そして、先輩の頬に指先が触れる。ミドリの瞳が、微かに揺れた。


「先輩の笑顔は凄く綺麗で、そして悲しい」


 見た目とか声とかじゃなくて、直感的な、第6感で感じとるなにか。だから、切ないような苦しいような気持ちになる。

 触れた頬は、ひどく冷たい。


「どうして、ですか」


 なぜ、こんなことを聞いているのか自分にも分からなかった。でも、先輩の悲しみが確かに私に伝わってきたんだ。私が綺麗に笑えない理由と、先輩の綺麗で悲しい笑顔が、私には微かにだけど重なって見えた。

 ただ、それだけ。


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