この心臓が錆びるまで
「どうして、って……」
掠れたか細い声。生温い風に流されて、その音は消える。目をそらした先輩は、ここにはない“何か”を見つめていて。
「心が、あるから」
ほとんど空気のようなそれは、私の耳には届かなかった。
「……ごめんなさい」
私は先輩からそっと手を離し、そして謝った。
ふと思ったことを、ただの私の勘を、無責任に口にして先輩を困らせた。苦しい思いをさせてしまった。
――だけど、先輩が抱えていたものは、私が想像するものよりも遥かに重いものだった。そんなこと、今の私は気付きもしないのだけれど。
「あんなこと言ったのは、あんたが初めてだよ」
「っ……ごめ、」
きっと、私は先輩を傷付けた。顔が、あげられない。
「でも、」
ふわり。静かな声と共に頭を温かい体温に撫でられる。それは、先輩の手だった。
「俺がうまく笑えてないことに気付いたのも、あんたが初めてだ」
顔を上げれば、先輩は笑っていた。悲しみを感じさせない、綺麗な笑顔で。