この心臓が錆びるまで


 私が先輩のことを翠と呼び出してから、どれくらい時間が経ったのだろう。

 最初はつい先輩と呼んでしまったり敬語を使ってしまったりしたけれど、他愛のない話しで盛り上がっているうちに、先輩を呼び捨てにする違和感なんてなくなってしまった。もちろん、敬語もなくなった。今日一日で、随分打ち解けた気さえする。

 ――私、出海 翠と世間話してる。

 なんて感動したのも、最初のうちだけだった。

 翠はふと制服のポケットに手を突っ込むと、携帯を取りだした。画面を確認してた瞳が微かに見開く。


「そろそろ下校時間だけど、」
「うそ、もう?」


 気付けば下校時間が迫っていて、なんだか今日は時間が進むのが早く感じられた。

 言われてみれば、私たちを照らしていた太陽は既に木々に隠れてしまっている。ベンチにも太陽の暖かみはなく、風もどことなく涼しくなった。

 翠はベンチから立ち上がって、呑気に伸びをした。


「そういえば、薺」


 何かを思い出したのか翠は振り返り私を見た。真剣な翠の瞳に、吸い込まれる。形の良い唇が、静かに空気を吸い込んだ。


「今日はいつもの時間に、校舎に戻らなくて良かったの?」


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