この心臓が錆びるまで
木々がざわめく。吹き付けた荒い風に翠の黒髪がすくわれる。私は散らばる髪を耳にかけ、半開きだった唇を閉じた。
少々の沈黙の後、翠は謝って会話を逸らそうとしたが、私はそれを止めた。また少し間を置いて、ゆっくり口を開く。
「今日は、特別な日なんだ」
空に一年前を思い浮かべながら、ゆるく笑う。翠は何も言わないまま、過去を見つめる私に視線を送っている。
「奇跡の一年を、生きた日」
きっと、翠にはこの意味は分からないだろう。それでも、この言葉以外に今日という日を例える言葉は見つからない。
今日は、本当に奇跡の一年を生きた日なのだから。
こんな日くらいは、少しくらい遅く帰ったってきっとお兄ちゃんも怒らないだろう。私だけの秘密の場所で、こうやって翠と出会えたのだって、それはきっと――…
「そっか」
微笑と共に降り注いだ澄んだ音は、私の耳に優しく馴染んだ。
そして、私がこのことについてこれ以上何かを口にすることはなく、翠も何も言おうとはしなかった。