この心臓が錆びるまで
随分打ち解けたように思えるのは、きっと気のせいなんかではない。屋上から眺める毎日から、薺と他愛のない話しをしながら笑いあうことができるようになったんだ。
「なにニヤけてんの?」
ふいに覗きこまれ、だらしなく緩んだ顔を見られる。俺は急いで頬の筋肉を引き締めて、なんでもないと薺の頭を撫でた。
気持ち良さそうに目をつむる薺。長い睫毛が白い肌に影を落とす。ふふ、と薺が笑った。
「なに?」
「んー? 幸せだなあ、と思って」
好かれてる。って、思ってもいいのだろうか。薺は俺を、気を許せる存在だと認めてくれているのだろうか。
周りはいつも俺を頼る。俺を好く。だけど、俺が誰かを好いたことなんて、ましてや頼ったことなんてない。そもそも、俺に人の支えなど必要なかった。
「俺も、幸せ」
いけないのに求めてしまう。必要ないのに欲してしまう。お互いが、足りないなにかを求めているから、心が惹かれ合う。
薺も、きっと何かがないんだ。俺に“終わり”がないように。
「……翠」
「、なに?」
薺の声で我に返った。
「また、悲しい顔してるよ」
ああ、何度めだろう。こう言われたのは。