この心臓が錆びるまで
“生き物”ですらない身でありながら、不安を抱く。自分の表情も操れないなんて。いや、そうじゃない。薺が、見つけ出すんだ。完璧の筈の俺の笑顔から、俺が他人に見せたくないものを、さらけ出したくないものを、簡単に見つけ出す。
この白く細い指で触れられると、全てを言ってしまいそうになる。
「何、考えてたの?」
「……なんにも」
「顔に嘘って書いてある」
ペチン、と薺の両手に頬を挟まれた。逸らされることのない瞳が俺の心を見透かそうとする。薺の顔は真剣だ。
でも、その顔に答えられる程の勇気なんて、俺にはないから。
「何でもいいだろ? 深入りすんなよ」
薺の手を退けて、俺は前に向きなおった。次いでに見せつけるように、足を組む。
こうでもしないと、薺の前では完璧でいられなくなる。いや、こんなのはただの言い訳、なのだが。
「人のファーストキス奪っといて、何自分を隠そうとしてんの?」
俺を見つめる薺は、膨れっ面で言った。
あの時は、本当に無意識だった。あの行動は決して良い行動選択とはいえなかった。それでも、確かにあれは“俺の意思”だった。薺なら。そう思った。
矛盾した想いに、吐き気すら覚える。